夏なのに

 

 柏原芳恵は悲しげに歌う。「春なのに,お別れですか。」

 そりゃそうだ。春はそういうものだと相場は決まっている。

 

 5月頃からなにかモヤモヤしていたのは,大学構内にそこそこ良い感じのダブついてる土地がありながら,そこにコンロを持ってきて只管に肉を焼き続け,喰らい,飲むという一連の儀式(終盤は暗いので肉が生焼けかどうか必死に判定するあの儀式!)を,今年は一度も通過していないからではなかろうか。それに気付いてから,だいぶ具合悪い。その儀式は,ジンパという。

 

 夏なのに,ジンパなしですか。

 そうです,ここは大都会。空間が変われば,相場も変化する。

 

 

 つらぁ

 

 

 この街には,爽やかと読めるような風もなければ,穏やかが聞こえてくるような時間もない。そこで強引に,羊を切り裂いた欠片を焼いたとて,それがなんだって言うのだろう。

 

 ……暑いとどうにも,北のことを考える。この時期に相応しいのは学部4年を過ごした道都だとか,霧に閉ざされた港町なのでしょう。別にホームシックでもなんでもなく,育ってきた環境が違うから仕方ない。

 

 そんなことを思っていると,なんだか久々に山次郎が食べたくなってもくる。山次郎とは,直系を1/3制覇した今の段階でも五指に入るくらい美味い(と乳化系好きのぼくが思う)二郎系ラーメン屋。札幌は北13条にある。大学3年の秋の開店から結構な頻度で食べていたにはいたのだけれど,二朗溢れる大都会でまさかここまで恋しくなるとは思ってもみなかった。

 

 9月には時間が出来る。航空券も安い。帰省がてら,札幌にも寄ろう。振り返れば,人との接触がキラキラしたまま堆積しすぎていた。利己的に生きるためには,自分が蒔いた育てたと自覚しているものは回収しておきたいので,不可避で戻る。ロマンチストの虚勢は失わないように。何日あっても足りない気がするのも,いまは妙に嬉しい。

 

 

 こんな風にまた,相場は決まっているのだろう,夏なのに,秋のことを考える。